最高裁判所第一小法廷 平成2年(あ)763号 決定 1990年11月14日
本籍
東京都文京区関口一丁目一番地
住居
同新宿区下落合一丁目一番一-一二一〇号
無職
坂本富司夫
昭和七年八月二五日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成二年六月二〇日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人泉芳政の上告趣意は、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項本文により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 橋元四郎平)
平成二年(あ)第七六三号
上告趣意書
被告人 坂本富司夫
右者に対する所得税法違反被告事件につき、上告趣意を述べる。
平成二年一〇月
弁護人 泉芳政
最高裁判所第一小法廷 御中
記
本件記録を精査するも、刑事訴訟法第四〇五条所定の上告理由は、之を発見することを得ず。
よつて、ただ、同法第四一一条第二号の事由につき、いささか意見を述べることとする。
本件事案の要旨は、新宿区百人町一丁目一八番一七号において、「ホテル日本」の名称で、旅館業を営んでいた被告人が、その所有する右ホテルの土地及び建物を昭和六一年中に売却して得た所得につき、所得税を免れようと企て、架空名義で開設した証券会社の取引口座に右売却代金を入金するなどの方法により、その所得を秘匿した上、当該年分の実際総所得金額については、二、四五八万三、一四九円の損失が生じたものの、分離課税による土地等の長期譲渡所得金額が四億九、四九四万七一〇円もあつたのに、これに対する所得税確定申告書を提出しないで納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により、一億五三三七万二、〇〇〇円の所得税を免れたというのであつて、その逋脱額が多いことと、被告人はその所有する本件土地等を売却して、利益を得たにもかかわらず、はじめから納税する意思をもつていなかつたので、証券会社員の悪知恵の勧めるままに、架空名義を用いて二〇件以上にも及ぶ多数の取引口座を開設し、右売却代金をこれらの口座に分散させて預け入れるなどした上、これに対する所得税について、全く申告しなかつたものであつてその犯行態様が計画的であり、巧妙悪質、納税意識の欠如等、その刑責は重いといわれても弁解の程はない有様である。
然し、被告人は本件発覚後、期限後申告をして、本件に関する本税の外、重加算税も完納して深く反省しており、前科前歴もなく、又、被告人がなお相当の資産を有していると原判決は言うが、株式売買による見込違いから、莫大な被害を被り自業自得と言うものの、現実に資産の大部分を失い、就職難に陥り四苦八苦の状態にあることを諒とせられ、罰金刑の四、〇〇〇万円は高額に失すると思料するので、減額せられんことを希う次第である。